・心意気
昔から農家には「苗半作」という言葉がある。
これは、苗の出来によってそのシーズンの成功は半分決まってしまうという意味である。
しかし、我々はその様には考えていない。
我々に野菜の作り方を教えてくれる師匠は、「苗で8割が決まる!!!!!」
と仰っている。
つまり、我々は、苗で半分どころか8割が決まると考えている。なので、めちゃくちゃ力をかけて苗づくりをしているのである。
今回は、その苗づくりについて簡単に紹介させて頂く。
・「一般常識」とは180度違う基準
まず、良い苗とはどのようなものだろうか?
この認識を間違えると生育方法が全く異なるものになってしまうため注意が必要である。
「一般的」にいい苗とは、大きく育ったものである。大きく育てるために必要なことは、播種(種まき)した後に温めて、数日以内に発芽させ、温かい部屋でぐんぐん生育させることである。
そうすると苗は大きく育つ。
では、我々がいい苗と考えるのはどのようなものか?それは、小さく、一見生育不良のように見えかねないものかもしれない。
このように育てるために「一般的」な方法とは完全に逆なことをする。
まず、土を液体肥料で濡らし、そこに播種をする。そして、冷蔵庫に入れて5日間以上放置する。
もちろんこの状態では芽が出てこない。
冷蔵庫から出した後は、温度が上がりすぎない日陰に移動する。
季節によって発芽までにかかる時間は異なるが、3〜10日間程度で土の中で発芽し、そこから初めて太陽光をしっかり当てる。
しかし、それでも無理に温度を上げず、ゆっくりと育苗する。
そうすると、根がしっかり伸びて、いい苗になっていく。
・なぜ大きい苗にしないのか?
実は、苗が大きく育つと、病弱で虫に喰われやすいものになってしまうのである。
一般的な感覚からすると、大きく育つ方がより健康で強い気がするが、なぜ苗は大きくなる方が弱くなるのだろうか?
それを理解するためには、樹体が大きいとはそもそも何なのか、そして、科学的な話を理解する必要がある。
ここで細かく書くと話が難しくなるため、科学的な話は回を改めて書きたいと思う。
超簡単に書くと、大きい苗は細胞が水脹れしたものであり、細胞溶液が薄いため、病原菌が増殖しやすくなる。小さい苗はその逆で、ジャムが保存食になるのと同じで病原菌が増殖できないのである。
・言うは容易く行うは難し
上に書いてきたように、発芽までにやることは、大まかに次の3つだけである。
①育苗箱に培養土を詰めて液体肥料で湿らせる
②播種して冷蔵庫に5日間以上入れる
③極力温めずに放置し、発芽してきたら太陽光に当てる
しかし、これらをいい塩梅に実践しようとすると、実はなかなか難しい。
特に、今まで農業経験がなかった我々からすると、農業の正しい感覚などわかるはずもなく、失敗して初めてわかることが非常に多かった。
①〜③のどこで失敗したかというと、どの項目でも何かしらの失敗を経験した。
まず、①の培養土を液体肥料で湿らす作業。
作業として難しいことは何もなく、育苗箱に詰めた培養土に液体肥料をかけるだけである。
しかし、晴天が続いたある春の日、ほとんど発芽しなかったのである。この作業が成功すれば、8〜9割の種が発芽するのだが、この時は発芽率が5割程以下になってしまった。
なぜこのようなことが起こったのか?
春先は明け方に氷点下まで温度が下がる日が多いため、種が凍ってしまったのか?
逆に、種が凍らないように温めすぎて煮えてしまったのか?
培養土を再々利用したが、培養土が悪くなってしまったのか?
事象が多すぎてなかなか失敗した要因に辿り着かなかったのだが、色々な検証をした結果、どうやら培養土が乾きすぎていたのが問題だった。
と言うのも、その年の春は雨が少なく、保管していた培養土がカラカラに乾いていたのだ。カラカラに乾いた土は水を弾いて簡単に吸収できないため、十分に濡らしたつもりでも土の粒の中まで水分が浸透していなかった。その結果、播種した種に十分な水分が染み込まなかったのである。
それからというもの、放置して乾いてしまった培養土を使う際は、濡らしては一晩寝かせを2〜3回繰り返し、徹底的に水分を染み込ませてから使用している。
そのお陰で、発芽率が下がることはほとんどなくなった。
②の播種して冷蔵庫に5日間以上入れる作業、こんな簡単な作業で失敗する余地など無いように思えるが、失敗してしまった。これは夏に起きた出来事だった。こまめに播種するのは作業効率が悪いため、数十枚一気に播種して冷蔵庫に入れ、使う枚数だけ小出ししながら使っていた。そうしたところ、冷蔵庫に入れてから1ヶ月ほど経った日に育苗箱を確認すると、5℃程度の温度のはずなのに発芽していたのである。恐らく、頻繁に出し入れするうちにちょくちょく庫内温度が上がってしまい、発芽してしまったことが予想される。
それ以来、一度に播種する枚数は控えめにし、保管期間も2〜3週間に抑え、冷蔵庫の温度が上がらないように細心の注意を払うようにした。
③の、冷蔵庫出ししてから極力温めないようにするのも落とし穴があった。
濡れている土を乾かさないように、そして、ズッキーニの発芽は嫌光性のため、光を当てないように、播種した育苗箱にマルチ(ビニール)をかけて日陰に置いていた。
しかし、夏場にマルチをかけていると、いくら日陰でもマルチの中に熱がこもってしまい、温めて発芽させることになってしまった。その結果、発芽したものは徒長してしまったのである。
使う資材はマルチではなく寒冷紗の方がよかったか?ここは次回再検討する必要がある。
このように、理論的には最高の発芽を理解しているつもりだが、それが100%実践できるように研鑽を積む日々である。